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今は一緒に行けません。 カグヤはそう言って車を一台用意すると、カレン達を何処かに連れていくよう命令した。持ってきた最低限の荷物をその車に積み替えると、すぐに車は発進し、途中2回車を乗り換えた。 そして高速道路にも乗り、京都からどんどん遠く離れていく。2時間ほど車に揺られただろうか、たどり着いたのは山の中に建てられた大きな建物だった。 私たちの荷物を下ろすと、車はすぐにその場を離れた。 「大きいわね。ここに住めってことでいいのかしら?」 「じゃねーか?あの運転手はあまり詳しく聞いてなかったらしいし」 何よりこの場所を誰かに知られないため、あまり長くこの場所に居られないと私たちを下ろすとすぐに運転手はここを離れた。それだけ警戒し秘匿している場所なのだと言う事が解る 「ここに居ても仕方ないわ。チャイム鳴らしてみましょう」 そう思い玄関に近づくと、内側からガチャリとドアが開いた。 出てきたのは胡桃色の髪の癖っ毛と深緑の瞳の少年。 それが誰かはすぐに解った。 こんな所で会えると思っていなかった。 いや、カグヤの従兄なのだから保護されている可能性はあったのだ。 私と玉城は驚き、思わず口をパクパクさせながら彼を指さした。 誰もいないと思って扉を開いたのだろう少年は一瞬驚いたようにこちらを見た後、失礼な態度を取る私たちに文句を言うでもなくにっこりと人好きのする笑みを浮かべた。 それはあの時代の彼にはもう出来ない表情。 彼の纏う空気も穏やかで、生き生きとしていた。生きながら死んでいた彼とはあまりにも違う姿に目頭が熱くなるのをカレンは感じたが、カレンも玉城もスザクには記憶がないのだと判断し、どう話すべきか戸惑った。 「こんにちは、こちらに御用の方でしょうか?」 「あ、え、あの、その」 私と玉城が口ごもるのを見て、兄と母は関係者だと解ったのだろう、私たちに任せることにしたらしく、後ろで様子を見ていた。 「ここへはどうやって来られたのですか?」 あまりにも私たちが何も言わないので、スザクはそう尋ねた。それもそうだ。こんな山奥に車なしで来る事は出来ないのに、既に車はここにない。 タクシーの可能性はあるが、その場合私達がこの場所を知っている必要がある。 「カグヤ様が送ってくれて」 「カグヤが?」 「うん、安全な場所だからって。ああ、来たのは私たち4人だけよ」 「・・・」 スザクは穏やかで人懐っこい気配を消し、探るような目つきで一瞬私たちを見た後、携帯を取り出し何処かに掛けた。 数コール後出た相手に、スザクは眉根を寄せ怒鳴った。 「カグヤ!何かあったらすぐ連絡よこすように言っただろ!今度やったら本気で出入り禁止にするよ!」 スザクはそう言うと、相手の返事も聞かずに電話を切った。 そのスザクの怒鳴り声が聞こえたのだろう、家の中から男性の声が聞こえてきた。 「スザク君どうしたんだ? 何かあったのか?」 「藤堂さん丁度良かった。何人か連れて周辺を調べてください。カレンと玉城がきました。後をつけられているかもしれない」 スザクの後ろから現れたのはあの頃より若い藤堂。 そしてスザクが今発した言葉でカレンと玉城はすべてを理解した。 「なっ!スザクあんた覚えてるの!?」 「ホントかよ!?」 いまだ警戒するような表情はしているが、やはりあの頃のスザクとは違いこちらは生きているスザクだ。 あの頃の記憶のままなら、こんなに生きた表情など出来ないと思っていたのに。 「ああ、2028年までの記憶なら持っている。それよりもどういう事なのか教えてもらえるかカレン」 口調が若干スザクらしくない、ゼロが混じった言葉で問われたが、カレンは気にせず笑顔で答えた。その視線は玉城を警戒しているようだった。 「玉城は大丈夫よ。問題は扇さんたちだから」 「やはり扇は問題なのか・・・。そっちは今C.C.が探っている。後ろの二人は?」 「私のお兄ちゃんとお母さん。お兄ちゃん扇さんと親友だから、何かあったら困るでしょ?だから一緒に連れてきたの」 「ああ、そう言えば扇グループは元々君の兄、ナオトのグループだったか」 納得したらしく、スザクは一度頷いた後、また子供らしい笑みを浮かべた。作られた笑みではあるが、それでもあの頃の彼には逆立ちしても浮かべられなくなった物。 仮面の重圧から解放され、人らしい感情が戻ってきたのだろうか。 「いらっしゃいませ。遠くから来て疲れたでしょう?部屋を用意しますので、どうぞ中へお入りください」 スザクが開いた扉の向こうには、見知った顔がいくつもあり、私たちを笑顔で迎え入れてくれた。 「卜部さん!仙波さん!朝比奈さん!千葉さん!」 「お~!藤堂だけじゃなく四聖剣までいるとはすげーな!」 「カレン君も玉城も元気そうだな」 苦笑しながら藤堂はそう口にした。 その言葉で、彼らにも記憶がある事は解った。 「紅月、ひとこと言わせてくれないか」 卜部もまた苦笑しながらそう呼び掛けてきたので、私は表情を改め、卜部のほうへ顔を向けた。 「どうしてルルーシュを信じられなかったかは解らないが、ルルーシュをあの場所から救い出すため、どれだけ俺たちが苦労し、どれだけの仲間が死んでいったか知っていたはずだろう」 そう、あのバベルタワーの作戦で生き残ったのはカレンとC.C.、そしてルルーシュ。皆あの日の戦闘で死んでしまった。 「・・・はい」 「俺はゼロが学生でも、ブリタニア人でも、それこそ皇族でも関係無かった。俺たちを導く存在であってくれればそれで十分だった。そのために命を賭け救い出したんだ。俺がルルーシュと会話をしたのはほんの短い時間だが、俺たちを捨て駒として扱えない人間だってことはすぐ解ったぞ。だから彼を守るため、この命を使ったんだ。なのにどうして長い時間共に居たお前が、それに気付けなかったのか不思議で仕方がない」 痛い言葉だった。 カレンだけではなく、玉城も藤堂も千葉も朝比奈もスザクも、卜部の言葉に項垂れていた。皆、信じなかったのだ、彼を。 彼の言葉に惑わされ、その裏側にあるものも、結果も、何も考えずに彼の全てを否定した。捻くれ者の彼は偽悪的に振舞いながらも私たちを守っていたのに。 だが私たちは何も理解せず彼が生きている事さえ、存在さえ否定したのだ。 「・・・まあいい。ルルーシュが怒っているなら俺ももっと強く叱れるんだが、ルルーシュはお前たちも許してしまっているからな。だが、反省はしろ。次裏切ってもルルーシュは許すだろうが、俺は違うからな覚悟しておけ」 解っている。もう二度と裏切らない。 何を言われようと信じると決めたのだから。 私も玉城も真剣な顔で卜部を見据えた。 「ああ、裏切れねぇよ。あんなの見ちまったらな」 もう二度と親友を裏切らない、あいつを信じ続ける。そしてあいつに笑っていられる世界を。それが俺のささやかな願いだ。 「ええ、今度こそ彼を守るって決めたの。・・・って、え?ルルーシュが許してる?って、え?」 ルルーシュが許しているかどうかなんて、本人に聞かなければわからないこと。 バベルタワーで死亡した卜部が知るはずのない情報だ。 それを知っていると言う事は、可能性は一つしか思い浮かばなかった。 「なんだスザク君、話してないのか?」 卜部達が視線をスザクに向けると、あからさまに不愉快そうに、敵意と殺気を孕んだ視線でスザクはカレンと玉城を睨みつけた。 「・・・ルルーシュを殺そうとした二人ですよ。本当に安全か確認してからにしようかと」 それは、その可能性に対する肯定の言葉。 「え?え?まって、え?あいついるの!?」 「は!?ルルーシュいるのかよここに!?ってかどうやってルルーシュの居場所知ったんだよ」 「そうよ!どこにいたのよあいつ!」 日本に戦争の前からいる事は知っているが、いつどこにいるのかさえいくら調べてみても解らなかったのだ。もしかしたらまだブリタニアにいて、開戦間際に来ていたのかもしれないと言う話も出ていた。 そんなカレンにスザクは呆れたような眼差しでため息をついた。 「・・・カレン、忘れてないか?僕とルルーシュは幼馴染だよ?ルルーシュとナナリーは僕の実家、枢木家で預かってたんだ。一応僕の父親はこの国の首相だからね」 「あ!そうだった、あんた日本最後の首相の息子じゃない!」 忘れてたわ! 幼なじみだって、確かに言ってた。 「そういやそうだったな!なんだ、カグヤ様よりスザクに連絡するほうが早かったんじゃねーのか?」 その玉城の言葉にスザクは首を横に振った。 「それは無理だよ。僕がここにいる事は父も知らない。桐原かカグヤを通さない限りここには来れないよ。それより藤堂さん」 「ああ。では失礼する」 長話をしすぎたな。 侵入者が居ないか調べるため、藤堂は四聖剣と共に外へ出て行った。 |